- 不動産を相続したけど、何をどう手続きすればいいかわからない。
- 自分で相続手続きしたいと思って司法書士のホームページを見たけど、内容が複雑でわからない。
そんな人たちのため、現役の司法書士であるタケさんが、難しいことは抜きにして自分で不動産の相続手続きができるように解説します。
時間がある人で、法務局に何度も行ける人は自分で登記してみてもいいと思いますよ。きっと登記を申請することの大変さを知っていただけるでしょう。
なお、自分で相続登記をしたいと考える場合は複雑でない相続であることが大前提。
- 被相続人(亡くなった人)→田中太郎
- 法定相続人→田中花子(被相続人の妻)、田中一郎(子)、田中二郎(子)
相続登記は自分でも申請することができます。この記事では簡単な相続登記の説明をしています。しかし、この記事のとおりに行えば登記が最後まで完了することを保証するものではありません。簡単だと思っていても、難しい手続きが必要になることも多くあります。あくまでも自己責任で行ってください。
もし自分で相続登記をすることに限界を感じたら、お近くの司法書士に相談してください。相続登記の申請を代理してできるのは司法書士だけです。
もくじ
不動産の相続登記の流れ
1.【遺言書】遺言書の有無を確認する
まずは亡くなった人が遺言書を残していないかを確認しましょう。
そして、もし遺言があったら自分で登記しようと思わないことです。なぜなら、
面倒だから
細かい説明は省きますが、遺言書が自筆証書遺言は家庭裁判所で検認手続きをしなければなりません。面倒な手続きが増えてしまいます。
遺言書が公正証書遺言である場合は検認は必要ありません。でも公正証書遺言を作っているということは、不動産の相続登記だけではなく、他の手続きも必要になると思うのでやっぱり専門家へGOです。
いきなり、「専門家のところへ行け」って出鼻をくじくようですが、遺言があるともう手続きは易しくありません。遺言があるなら自分で登記は止めておいたほうがいいですね。
民法改正により、令和2年7月10 日から「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が施行されます。自筆証書遺言に限られますが、法務大臣の指定する法務局(遺言書保管所)において遺言書を保管してもらうことができます。遺言保管所に預けられた遺言書は、遺言者が死亡した際の検認が不要となることが特徴です。
2.【相続人の範囲】相続人が誰かを調査する
2-1.戸籍を集める
今回は相続する人が「亡くなった人の配偶者(夫か妻)および子ども2人」という相続パターンを想定してます。
相続登記をするためには戸籍を集めることが必要です。しかし正確に戸籍を集めることは意外と難しい。
相続登記の1番の難しいポイントと言えるかもしれません。
必要な戸籍は以下の通り
- 亡くなった人の出生から死亡までの戸籍の全て
- 相続人の現在の戸籍
ポイントは以下の点です。
- 被相続人(亡くなった人)の戸籍には「死亡の記載」があること
- 相続人の現在の戸籍は被相続人が亡くなった日付け以降の戸籍が必要
戸籍を集めるには、亡くなった人の本籍地の所在地の市役所に行って戸籍を取得することになります。
相続人の戸籍は相続人の本籍地の所在地の市役所に行って取得します。
上でも述べたように、亡くなった人の戸籍は「出生から死亡までの戸籍」となります。そうなると、戸籍謄本の数も多くなるので全部集めるのは結構大変です。
でも安心してください。たいていの市役所は戸籍を取得する申請書に次の文を書けば必要な戸籍を出してくれます。それは、
『田中太郎の出生から死亡までの戸籍をお願いします』
そして、しばらく待つと田中太郎の生きた証が紙となって出てきます。
一番古い戸籍に田中太郎の出生の記録が載っていたら、戸籍集めは成功です。
3.【相続財産】相続財産の調査
3-1. 不動産登記事項証明書
登記事項証明書とは聞きなれないと思いますが、登記簿謄本のことです。現在は「登記事項証明書」と言います。
土地や建物がどれくらいの面積あるのか、誰が所有者なのか、抵当権などの担保は付いているのか詳細が記載されている公的な書類です。最寄りの法務局で全国のどの場所の(他人の土地や建物でも)登記事項証明書を取得することができます。
登記事項証明書の見本はこちら(法務省のホームページが開きます)
3-2. 権利証(登記済証)
権利証は相続登記に必要な書類ではありません。権利証をつけなくても相続登記は可能です。
しかし、権利証を見ることで相続登記をするべき不動産を正確に知ることができます。
よくあるケースとして、土地と建物だけを相続登記すればいいと思っていたら、敷地の前の道路の持ち分も登記しなければならなかったということです。
相続登記を漏れを防ぐためにも、権利証を見て相続するべき不動産を確認しましょう。
現在では、登記が完了した際に登記済証は発行されなくなりました。その代わりに「登記識別情報通知」が発行されます。本来、権利証は不動産の登記申請の際の「本人確認」のために添付される書類です。不動産の名義人である本人が所有している権利証を添付させることで、本人からの申請であることを担保するものとなります。「登記識別情報通知」も同じ役割を果たす書類ですが、権利証よりも簡易な書面となっています。
3-3. 固定資産税評価証明書・納税通知書・名寄せ(なよせ)
亡くなった人が収めていた固定資産税の納税通知書があるなら、それを見ればどの不動産を持っていたかを確認することができます。
市役所もしくは区役所で固定資産税評価証明書を取得することでも確認することができます。固定資産税評価証明書は登記申請の際に必要となる「登録免許税」を算出するのにも使いますので、取得しておくと良いでしょう。
4.【遺産分割協議】遺産分割協議書を作成する
さて、今回は相続する人が「亡くなった人の配偶者(夫か妻)および子ども2人」という相続パターンということでした。
このケースですと法律で決められた配偶者の相続分は「2分の1」です。
そして、子どもたちの相続分は「4分の1」ずつになります。
しかし、遺産分割協議をすれば、相続人のなかで誰が相続することを決めることができます。配偶者である田中花子に全部を相続させることができるわけです。
遺産分割協議は絶対に必要ではありません。法律で決まった相続分のまま登記することもできます。しかし、そうすると不動産は共有名義となってしまいます。つまり、持ち主が複数人となるのです。不動産の持ち主が複数になると面倒なことが多くなります。誰が住むのか、維持費は誰が支払うのかという問題も出てくるでしょう。不動産を自由に売ることも難しくなります。そういう理由で、不動産はだれか一人が相続して、他の相続人はお金や他の相続財産をもらう、という分け方が好ましいと言えます。
5.【登記申請書】登記申請書を作成する
上記のことを決定して、いよいよ登記の申請書を作成します。
登記申請書の作成は実はそんなに難しくありません。決まったことを書いていけばいいのです。
ポイントを述べると、
- 「登記識別情報の通知を希望しません」にはチェックしない
→登記識別情報は必ず発行してもらいましょう。
- 登記原因は被相続人が亡くなった日付
→戸籍謄本に記載されている死亡日を記載します。
- 課税価格は固定資産税評価証明の金額を記載する
→マンションの場合、土地は持分の割合をかけた金額となります。
例えばわたしが作成した上記のサンプルを例にすると、土地の評価額は123,456,789円となっているが、持分が9500/1800000なので掛け合わせる。
123456789×9500/1800000=651577
上記の金額が土地の評価額となります。それに建物の評価額を加えると、
651577+7654321=8305898となります。
「課税価格」は1,000円未満は切り捨てなので、8,305,000円となります。
そして、相続登記の「登録免許税」は課税価格に4/1000を掛けた価額です。
8305000×4/1000=33220となります。「登録免許税」は100円未満は切り捨てなので、
登録免許税は33,200円となります。
- 「不動産の表示」は登記簿を参考に書けば問題ありません。
→マンションの場合は記載事項が多くなりますが、頑張って記載しましょう。
6.【登記申請】法務局へ登記の申請をする
申請書を作成したら、いよいよ法務局に登記申請をすることになります。
登記に必要な書類は以下の通りです。
- 登記申請書
- 相続関係説明図
- 遺産分割協議書(印鑑証明書付)
- 相続人の住民票(相続することになった人のもの)
- 集めた『戸籍謄本』全て
- 固定資産税評価証明書
- (被相続人の住民票の除票または戸籍の附票など)
説明を加えていきましょう。
①登記申請書
上記で作成した申請書を提出するのですが、申請書に収入印紙を貼り付ける必要があります。
登録免許税の金額分の収入印紙を貼り付けましょう。
法務局に行けば収入印紙売り場がありますので、そこで購入してもいいですし、郵便局にも収入印紙は売ってます。
A4の用紙で申請書を作成した場合、収入印紙を貼り付けるスペースがないと思います。その場合は、白紙の紙に収入印紙を貼り付けましょう。
そして、申請書の次に収入印紙を貼り付けた用紙を綴り、各用紙のつづり目に『契印』を押しましょう。印鑑は申請人(相続することになった人)の印鑑です。
『契印』というと難しく感じるかもしれませんが、用紙と用紙の間に印鑑を押して、用紙間をつなぐイメージをしてください。割り印とも言われています。
②相続関係説明図
相続関係説明図とは、被相続人の相続関係を明らかにする書面です。
取得した戸籍を基に、田中太郎の相続人を全て記載する必要があります。
そして誰が相続人となるかも表示します。見本の場合、田中花子が不動産を取得することになりましたので、(相続人)と記されています。
相続しない人たち、田中一郎、田中二郎は(遺産分割)と記します。
後にも述べていますが、この相続関係説明図を添付すれば戸籍謄本は返却してもらえます。
戸籍謄本を返却してもらうためにも、相続関係説明図は作りましょうね。
③遺産分割協議書
相続人全員で作成した遺産分割協議書が必要です。だれひとりとして欠けてはいけません。全員の書面が必要です。
よくある質問として、
相続人全員が一枚の用紙に署名押印しなければいけませんか
というものがありますが、その必要はありません。
同じ内容の遺産分割協議書に一人ひとりが署名捺印したものでも構いません。
遺産分割協議書には実印を押印します。
そして印鑑証明書を添付する必要がありますが、この印鑑証明書には期限はありません。
④相続人の住民票
遺産分割協議で不動産を相続することに決まった人の住民票が必要です。登記名義人(不動産の所有者)として登記簿に登記されるので、住所と名前を証明する必要があるからです。個人の住民票に期限は特に定められていません。
⑤集めた『戸籍謄本』全て
相続登記のために集めた戸籍全部を提出します。②の「相続関係説明図」を添付すれば、登記完了後に戸籍の原本は返却してもらえます。
戸籍は不動産の相続登記以外にも利用する場面があるので、返却してもらうほうがいいでしょう。そういう意味でも相続関係説明図は添付したほうがいいですね。
⑥固定資産税評価証明書
固定資産税評価証明書は本来、添付する必要のない書面です。しかし、法務局の運用上添付を求められることがあります。
登録免許税を算出する根拠として付けろ、というのが法務局の言い分のようです。
固定資産税評価証明書が必要な法務局と必要でない法務局がありますが、付けておいて文句を言われることはないので、念のために付けておけば問題ないでしょう。
⑦被相続人の住民票の除票や戸籍の附票など
被相続人と登記名義人が同一人物であることを証明するために、『被相続人の住民票の除票』を添付します。
被相続人の最後の住所地と登記名義人の住所が違っていた場合は、『戸籍の附票』を添付して住所が移転していることを証明していきます。
もし住民票の除票や戸籍の附票が保管期限を過ぎていて取得できなければ、、、
『権利証』を添付してください。
『住民票の除票や戸籍の附票を取得できない場合は権利証添付すれば受け付けるで』という通達があるので大丈夫です(平成29年3月23日法務省民二第174号)。
本来、住民票の除票の保管期限は5年間とされていました。そのため、被相続人が亡くなってから5年経過していた場合、住民票の除票の添付ができなくなるという不都合が生じていました。
住民基本台帳施行令の一部改正(令和元年6月20日施行)により、住民票の除票の保存期間が150年間に延長されました。
今後はこのような不都合はなくなるでしょう。よかったよかった。
7.【登記完了】法務局で権利証(登記識別情報通知)を受け取る
登記の申請を受け付けてもらうと、法務局の審査が行われます。書類が足りなかったり、申請書が間違っていた場合は『補正』と言って間違えた場所を直すように連絡が入ることがあります。
法務局に行って間違えた個所を直すこともありますが、司法書士としては恥ずかしいことです。
補正もなく、申請に問題がないなら、約1週間くらいで法務局の処理が終わります。
登記が完了すると新しい権利証(登記識別情報通知書)が発行されますので、それを受け取りに行きましょう。
登記識別情報通知とは、自分が不動産の所有者であることを証明する書類です。
法務省の見本では丸見えになっていますが、12桁の英数字が暗証番号のような役割を果たします。通常は袋とじになっていて見えないようになっていますので、ピリピリ破くのはやめましょう。
今後この登記識別情報が必要になるのは、
- 不動産を売る時
- 不動産を担保にお金を借りる時
くらいでしょう。そんなことは滅多にないと思いますので金庫にでも大切に保管しておいてください。
受け取るために法務局に持参するモノは
- 登記の申請書に押した印鑑と同じ印鑑
- 身分証明書
です。登記を申請した場所で識別情報通知書を受け取れば終了です。
念のため新しく登記されたことを確認するために、新しい登記簿謄本も取得しておきましょう。
自分で不動産の相続登記をしてみましょう
いかがでしょうか。最初にも述べましたが、不動産の相続登記は誰でもできます。
ただし、結構大変です。
時間に余裕があるならば自分でやってみてもいいでしょう。難しければ司法書士に依頼する道も残されています。
でも、一番やってはいけないことは、
- 途中までやって難しかったからあとは司法書士に任せる。自分で動いた分は報酬を安くしてほしい。
- 申請書揃えてみたけど、これで申請できるか無料でチェックしてほしい
- 足りない書類がないかを、無料で教えてほしい
もし上記のような人がウチの事務所に来たら、
満面の笑みで追い返します
司法書士にお願いするなら、きちんと正式な報酬を払いましょう。そして司法書士は単なるチェックなんてしません。そこには専門家としての責任が伴いますからね。ちゃんとお金払って依頼してください。
最後は愚痴みたいになりましたが、この記事を参考に相続登記やってみてください。相続登記も奥が深いんだなぁということが分かるかもしれません。
タケさん(@takesanblog)でした。